今回と次回とで、2回にわたり『デザイン思考』という思考方法についてお話させていただきます。

『デザイン思考』とは何かをお伝えする前に、1つ例え話をさせてください。

一人暮らしをしている87歳のおばあさんが、介護施設で暮らすことになりました。ご主人は早くに他界し、娘さん家族も遠くに離れて住んでいたので、会えるのは年に数回だけでした。施設はつねに人が周りにいて寂しくないし、お世話もしてくれるので、娘さん家族も安心できるということで入居を勧めました。少しして会いに行くと、おばあさんは別人のようにおとなしく気力も弱く、生きることがつらいと言いました。おばあさんはどうしてこのようになってしまったのでしょう。

昔からとても社交的な方で趣味も多く、友人もたくさんいる方でした。お話することも大好きで、よくお孫さんや娘さんとも電話をしており、明るく元気な方でした。以前とは別人のような彼女の姿を見て、娘さんたちは驚き、おばあさんを喜ばせようと会いに行くたびにいろいろなことをしました。好きだった趣味の話、プレゼント、施設から出てドライブや食事等、できることは様々行いましたが、様子は変わりませんでした。

仕事が忙しく、なかなかおばあさんに会いに行けなくなったことから、お孫さんは手紙を書いてみることにしました。数日後に施設の方から連絡があり、涙を流して何度も読み返している、ぜひまた手紙を送ってあげてほしいと言われ、月1程のペースで送るようになりました。しばらくして久しぶりにおばあさんに会いに行くと、以前より元気で活き活きとしたおばあさんがおり、「この間の手紙に書いていた話はどうなった?」など、以前のように楽しそうにたくさん話をしてくれました。

このことからわかる、おばあさんが元気になるためのソリューションは「手紙」となったのですが、重要なポイントは「つながり」です。おばあさんから生きる気力や元気を奪ってしまったのは、施設への入居から生じた、人との「つながり」のロスです。友人、近所の人、家族など、施設には自由に使える電話もなかったので、向こうから会いに来ないかぎり、交流はまったくなくなっていました。おばあさんは、「1人ぼっち」ではなくなったけど、「独りぼっち」になってしまった気がして虚無感を感じていました。

手紙での継続した交流によって、忘れられていないという安心感、大切にされている、必要とされているという自信を実感できたことが効果的でした。この気づきを得てからお孫さんたちは、おばあさんの妹や親戚に声をかけ、それぞれが会いに行くようになりました。また、手紙とともに写真を送ったりし、おばあさんは以前のような明るさを徐々に取り戻しました。

デザイン思考とは

『デザイン思考』とは、課題の解決手法の一つで、画期的なアイデア、イノベーティブな発想、クリエイティブな思考を創出する手法として、近年注目されている思考方法です。すでに浮き彫りになっている問題に対して「物・サービス」を単純に当てはめて解決をはかるのではなく、「人」を中心として考え、その「人」に何が必要なのかを探求し、解決に導きます。米・スタンフォード大学のd-schoolは、デザイン思考を大きく広めたといわれています。

具体的な思考プロセスは、以下の4点です。

① 相手を知る(観察、なりきり、ヒアリング)、共感、ニーズ(問題)を探る

② 問題を定義する(本質にせまる)

③ 最大限多くのアイデア(可能性)を出す

④ アイデアを全て 試す ⇔ 検証 を繰り返し、解決策を探る

「真の問題は何か」「仮説は本当に正しいのか」「この現象が意味するものは何か」というように、いくつもの問いを繰り返しながら、問題解決に取り組んでいきます。

上記の例え話は、物質として何か新しいものを作りだしてはいませんが、小さなイノベーション(変革)を起こした例と言えます。おばあさんの抱えていた問題の本質がわかったことによって、アプローチの仕方が変わり、結果としておばあさんのこれからの人生に大きな影響を与えました。

この思考法は、正しくニーズや問題をみつけることに重きを置いています。浮きぼりになっている問題は、実は本質的でないことも多く、問題を抱えている当人でさえも問題の本質に気づけていなかったりします。問いを繰り返し、確からしさを追求し、それに対して考えられるだけのアイデアを、ブレーキをかけずにとにかくたくさん出して試行錯誤することで、イノベーションを起こすことにつながります。

今回は、デザイン思考を例え話とともに少しだけお伝えしました。次回は、どのような研修を通してこれを学んでいくのか、どういった効果が得られるのかなどお話しできればと思います。

それでは、また(⌒∇⌒)