国際ビジネスマナーと聞くと、皆さんはどのようなイメージが思い浮かぶでしょうか? 多くの方が、日本のビジネスマナーとは違う何か特別な接客応対や所作、ふるまい等を想像されるのではないでしょうか。しかしながら、国際ビジネスマナーと言われるほとんどは、日本のそれと大きな差があるわけではありません。では、どうして国際ビジネスマナーを知らないと損をするのか、事例とともに解説していきたいと思います。

ここでは、慣習、所作、言動の3つの観点から、日本人がよく直面するカルチャーギャップをお話しします。

1 慣習:初対面のあいさつ(名刺交換)

初めての商談やアポイントメントでは、まず名刺交換をするのが日本人同士のビジネスシーンでは通例ですが、グローバルでは名刺交換はさほど重要とされていません。

◇ 日本:名刺交換の作法・マナーがあり、敬意を示す儀礼的な意味合いが含まれる

◇ グローバル:名刺はメモ代わり、相手を覚えておくためのものという認識が一般的

グローバルビジネスでの挨拶は、名刺交換よりも先に、固く握手を交わして自分の名前を名乗り合うのが一般的であり、名刺交換はその後です。時には商談の最後に行われることもあります。このことからも、あまり名刺自体に重きを置いていないことがわかります。

実際、私が初めて海外出張に行った際、名刺交換しようと自分の名刺を渡すと、カードゲームのように片手で軽く受け取られ、さらに名刺にペンでメモを書かれるといったことがありました。名刺交換の認識の違いを知らなかった私は、当惑したと同時に相手に対してネガティブな印象を持ってしまいました。もしも大事な商談で、こういった異文化間での認識の違いを知らずにビジネスを進めてしまうと、とても些細なことが原因でその後のビジネスに悪影響を及ぼす可能性もあると思います。

2 所作

ここでは、所作に関して日本人がやってしまいがちな例を2つ挙げたいと思います。

① 不明確なことがあっても、とにかく笑顔で対応

日本では、常に笑顔でニコニコと明るくいることが良いとされています。しかし度が過ぎると、グローバルビジネスにとっては致命的な結果を生むことになりかねません。

日本人ビジネスパーソンのAさんがアメリカ出張に行った際、これからパートナーとなる可能性のある企業と打ち合わせをしました。相手はネイティブのイングリッシュスピーカーのため、容赦なくナチュラルスピードの英語で色々と希望条件や質問を投げかけます。Aさんは細部が聞き取れずにいましたが、その場を何とか円満に乗り切ろうと終始笑顔で話を聞いていたそうです。しかしAさんの意図とは裏腹に、「なぜ我々の質問にも答えず意見も言わずにヘラヘラ笑っているのか?」と、かえって相手に悪い印象を与えてしまいました。

グローバルビジネスでは、日本よりも自己主張の強い文化を持つ国々と渡り合うことになり、きちんと意思表示をして主張しなければ、存在しないのと同じとみなされてしまいます。わからない時は無理に笑顔を作らずに質問をする。少なくともわからないことを相手に伝えるジェスチャーや表情を表す必要があります。

② 打ち合わせ中に目を閉じて腕を組む

日本では、会議や商談の最中に無意識に腕組みをしてしまう人が多く見受けられますが、グローバルビジネスでは腕組みはビジネスマナー上あまり良いものとされていません。「敵対の意思表示」と認識されてしまうためです。大切な会議や商談の際には意識して腕組みしないほうが無難です。

また、このように捉えられることもあります。外国人ビジネスパーソンのBさんが日本の企業を訪問した際に、プレゼンをしたそうです。終了後に、“何か質問はありますか?”と尋ねたところ、何名かの日本人が腕組みをして目を閉じていました。Bさんは、自分のプレゼンの内容がつまらなくて寝てしまったのだと勘違いしてしまい、大きなショックを受けたそうです。日本人的な感覚では、熟考していると認識されるこの所作が、悪い印象を与えてしまったようです。腕組みにかかわらず、ピースやOKサインなどの意思表示となる所作は、国や人種が違えば、別の意味を持ちます。時には侮辱・敵対の意思を示すこともあります。些細なことでビジネス上のリスクを生まないためにも、最低限の国際基準は身に着けておきたいものです。

言動:言い回しに対する異なる捉え方

グローバルビジネスでは、単純に英語を話せれば十分でなく、日本人的な感覚から国際基準に合わせてゆく必要があります。最後にある言動に関することをお話ししたいと思います。

日本企業に勤める日本人のCさんは、あるプロジェクトを任せられました。そのプロジェクトに参画したいという海外企業との商談の際、相手から色々と難しい提案や、厳しい条件を提示され、“ It is interesting, but difficult…”と、お断りするニュアンスのつもりで相手に伝えたそうです。

日本人同士であれば、この言い回しの真意は通じると思いますが、この海外企業は断りのニュアンスだとは捉えませんでした。 数日後に彼らからメールが来て、“Cさんが前向きに関心を示していたこの案件を進めたい。ついては詳細の条件を詰めたいので、打ち合わせをお願いしたい。”と連絡が入ったそうです。difficultという言い方には「難しいがなんとかなる」という前向きなニュアンスも含まれており、さらに今回の場合はinterestingというポジティブに受け取れる言葉も先に入っていたため、このような誤解を生んでしまいました。

含みを持たせる日本語をそのまま英語に言い換えるようなコミュニケーションの取り方は命取りになります。結局、後日に関心がない事情をはっきりと伝えたところ、相手は憤慨してしまったそうです。Cさんは決して英語が苦手なわけではありませんでしたが、あまり直接的なお断りをすることがマナーとして良くないという意識があり、ついつい日本人的な相手に察してもらうような話をしたことが、このような結果を生む原因となりました。

いかがでしたでしょうか。グローバルなフィールドでビジネスをするには、言語だけではなく国際基準のビジネスマナーや感覚を身につけることもとても重要だと思います。些細なことで、意図せず大きな結果の違いを生んでしまったり、人間関係を悪化させる原因とならないよう、こういった部分にも焦点を当てたグローバル人材教育を考えていきたいと思います。